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想定実施率は前述のように低いため、当該地域において想定される被害程度が明示されず(明示されても具体的でない)、その結果、災害予防計画や災害応急対策計画に具体性を欠いている地域防災計画が少なからずある(このことの詳しい説明については、災害予防計画、災害応急対策計画の項を参照)。
(3)問題点3:防災ビジョンが示されていない
(2)で述べた「想定される被害程度」が明らかにされたならば、総則には次のような項目が記される必要がある。
?対策を優先するべき被害項目(あるいは危険性)
浸水災害は人的損失危険は小さいが頻度は高い、一方、地震はいつ起きるかわからないが一旦発生したら大きな人命損失が予想されるといったような場合、どちらをどの程度重視するのかといったことが整理される必要がある。これが整理されていないと対策に一貫性を欠き、その効果を削ぐことになる。財政・人員が限られている条件のもとではなおさらである、
また、仮に地震災害を重視するとしても、人命損失、生活障害、経済的損失などの危険性のどれをどの程度重視するべきかということも整理しておかなければならない。
?「安全・安心な街」の将来像とそれに照合した対策
次に、当該地域が目指す「安全・安心な街」の将来像を設定する。すると、その将来像からひるがえって現在を捉えたとき、対策は将来像に合致したものに絞りこまれるとともに、対策相互間の整合性・有機性は保証され、、相乗効果を上げることが可能になる。
なお、この場合、重要度・緊急度の視点からも対策を絞りこむ必要がある。
「安全・安心な街」の将来像のイメージとしては、都道府県や市町村で策定される総合計画(基本構想)の防災版を考えるとよい。例えば、総合計画(基本構想)が、「豊かな自然を生かした住みよい街づくり」といったことを基本理念としてうたっているならば、「安全・安心な街」の将来像の基本理念は、「水と緑のネットワークで構成されたバリアフリーの街」に設定するといった具合にである。このような理念のもとでは、密集した市街地の公園や道路・遊歩道などには延焼防止効果の高い(かつ周囲と調和する)樹木が意識的に植樹される。また、消防水利の整備は自然水利が重視されるため、既に暗渠化されている小河川や水路の見直しが必要になるかも知れない。さらに、災害弱者の障害となるものは排除され、わかりやすく親しみやすい地域空間の創出が強く求められることになる。
以上の?と?を整理して、10年〜30年程度のタイムスケジュールの中に位置づけたものをここでは「防災ビジョン」とよぶことにする。
前述の説明から防災ビジョンの重要性はおわかりいただけると思うが、全国的にみた場合、防災ビジョンを示している地域防災計画はきわめて少ないのが現状である。

 

 

 

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